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まれにいいこと

小さないいこと探しながら、今日もなんとか暮らしています。

大人のための子ども本 『やさしいあくま』なかむらみつる作

イラストレーターとして活躍する、なかむらみつる(326)さんが手がけた、初の子ども向け絵本。

子ども本としては、ちょっぴり異色な、みつるさんのポップな絵。

字数もかなり多めで、読みごたえがあります。

子どもだけで読めるようになるのは、小学校中学年以降かなと思います。

......が!!!

子どもだけで読ませないで欲しい!

絶対に親子で読むべき1冊です。

......と、ここまで書いて、本の「あとがき」を読んでいたら!!!!!

みつるさんご本人も、

特別、子供の絵本と意識していたのは最初だけで、描いてくうちに、ある日思った。子供と大人はどっちが先なんだろう?……なんだか、子供用も大人用もないんだな。と気が付いた。ーー「あとがき」より、引用

とおっしゃっていました!!!

この本を今回紹介するにあたり、調べてみたところ、昨年末から、Amazonプライムビデオで動画配信されているようです。

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『やさしいあくま』なかむらみつる

病気のおばあちゃんとふたり暮らしの男の子、フウ。

あかい悪魔の子、チュッチュ。

友だちがいない二人は、すぐに仲良しになります。

そんなある日、フウの献身的な看病にも関わらず、おばあちゃんが危篤に。

助けを求めに町にでたフウは、悪魔と仲良くする不幸を呼ぶ者として、町の人から邪険にされ、町を追われます。

フウが逃げ帰った家で、フウと町の人たちが見たものは、おばあちゃんから何かを吸い取り、化け物に姿を変えたチュッチュ。

フウに、ひどい言葉をなげかけるチュッチュ。

チュッチュに裏切られたと思いこんだフウは、チュッチュを棒きれで叩いて追い払います。

(余談ですが、この場面を読むと、いつも源義経と弁慶の勧進帳を思い出してしまう私...)

そしてフウは、チュッチュとの絶縁と引き換えに、はじめて町の人たちの輪の中に入ることができます。

思い出の木の下で消えていく、チュッチュ。

チュッチュの本心を知った、フウ。

思い出の場所にかけつけた、フウが見たものとは......?

 

これはハッピーエンドなのか、そうではないのか、何度読んでも、ただひたすら、涙だけが残ります。

フウが、皆に忌み嫌われる悪魔の子を、ひとりの男の子として受け入れた、

その純粋さに、心を洗われる思いがし、

チュッチュが自己犠牲の上に、大切な人を守ろうとした優しさに、忘れていた何かを思い出す。

実体としてのつきあいは消えても、心は消えないということを教えてくれる。

うまく表現できないが、無いけど、必ずそこに有るものの存在を教えてくれる。 

 

紆余曲折の末に、フウがチュッチュの本心を知ることができたこと、

また、経緯と意義はさておき、町の人の輪に入ることができたことは、良かったと言えるだろう。

でも、実体としてのふたりの悲しい別れは、元には戻らない。

「なぜ真の友だちを信じきることができなかったのか」という、フウの心の叫びが聞こえてきそう。

社会に生きるというのは、それが己が望んだこと、正しいと思えることではなくても、

他と歩調を合わせていく(迎合する)ということなのか?

そうした大人の世界の、ある種切なさもあふれてきます。

(→ 悲しいかな、私が一番考えてしまったことは、コレです...)

  

みつるさんは「あとがき」で、「死と再生」、そして「やさしさ」について書きたかったと言及していますが、

この本から与えられるメッセージは、それだけにとどまらないと断言します。