イチローの世界が見えてくる② (カナダの教育現場から⑦-2 ~可能性のある自分)
前回ご紹介した、グロースマインドセット(Growth Mindset)の続きです。
息子がクラスで話しあったという課題は、
「算数で分からない問題が出てきたAくん、学校にいてもつまらないので、学校を休もうとしています。どう思いますか?」
というものでした。
ここでまず、算数が分からない子どもの気持ちを、マインドセット(=考え方)別に分けて考えます。
● フィックストマインドセット(=固定思考、成長を阻害する考え方)の場合
「あ~ぁ、こんな難しいの分かるわけないじゃん!もう嫌だ。つまんない!」
● グロースマインドセット(=成長思考、成長を促す考え方)の場合
「どうやったら解けるかな?もう一度考えてみよう。考えても分からなかったら、誰かに聞いてみよう。」
という感じかと思います。
息子たちが考えたことは、以下のような感じだったそうです。
・ 分からないことをそのままにしないで、簡単な問題からやり直して、少しずつ難しい問題にチャレンジするといい。
・ 先生や友達、親に聞いてみるといい。
・ わからない問題を一緒に考えてあげたい。
・ 難しい問題に一緒にチャレンジしてみたい。
・ 学校に来るように、誘いに行ってあげたい。
・ 一緒に遊んで、楽しい気持ちにさせてあげたい。
「友達を助けたい」という発想に癒されました(´▽`)
→ 後述しますが、実はこれがグロースマインドセットを育む子育ての、大切な要素です。
大人になってからでも、このグロースマインドセット、意識するだけで身に着けることが可能なのだそうです。
グロースマインドセットのビデオを毎日30分見るとか、グロースマインドセットを持つ人と時間を共有するとか、小さな目標を少しずつ達成させていくことの積み重ねとか、毎日の生活に、ちょっとした刺激を加えることで意識を変えてみるといいのだそうです。
......私にも希望の光が(笑)?
しかし、もちろん、小さいうちに身に着けたほうが、自分の可能性を切り開いていく上で、より一層効果的であることは疑いもありません。
そこで、子育て方法が重視されるわけです。
グロースマインドセットを身に着けさせるには、
「子どもがグロースマインドセットを身に着けるための環境を整えてあげる」
というのが、大切なのだそうです。
具体的に言うと、こんな感じです。
① 成功したことではなく、プロセス(過程)を褒める。
次のような研究結果があるそうです。
テストで良い点を取った子どもたちを、
・「◎点も取ったの!天才ね!」と、結果を褒めるグループ
・「◎点も取ったの!よく頑張ったね!」と、努力を褒めるグループ
に分けました。
前者は、よい結果を確実に得るために、難問に挑戦しなくなったり、褒められるために嘘の点数を教えたりするようになったそうです。
逆に後者は、好奇心から、より難しい問題に挑戦するようになり、結果として成績が伸びていったそうです。
② 人格を否定するようなことを言わない。特に失敗した時には、一緒にその原因と解決策を考えてあげる。
イチローのお父さんが、次のように語っています。
「お前みたいなものがとか、そんな夢みたいなことを言ってとか、親がそんな事を言ってしまったら、子供は下を向いてしまいます。(中略)
子供は大きな夢をもって、将来に向けて勉強をしているんだから、親はそんなエゴ丸出しの言葉は吐いちゃいけないと思う。(中略)
子供の夢を手伝うのが親の務めなんです。プロになれるかどうかはわからない。しかし、才能を引き出し、可能性を見つけてやるのが親の義務だと思います。」
ーーー引用元:『天才は親が作る』吉井妙子
親が怒ったり、否定的なことを言うのは、親の勝手な感情や考え方の押し付けであって、それが正しいこととは限らない。
子どもの目線に立って、一緒に考え、支えてあげることが大切です。
③ 努力できる環境を整え、その過程に付き合う。
イチローのお父さんは、イチローが小学校低学年の頃、「野球をやりたい」と申し出て以降、毎日、学校から帰宅後、野球の練習に付き合ったそうです。
「じゃ、お父さんが相手してあげるけど、毎日やれるか」
「うん」
「男の約束だよ」
ーーー引用元:『天才は親が作る』吉井妙子
子どもとの「約束」を守る、という大義名分のもと、イチローの努力の軌跡を見守ることになったお父さん。
お父さんの決意と行動が、イチローの努力を支え続けることになったのだと思います。
自分の時間に子供を当てはめようとするから無理と思うのであって、子供の時間に自分が合わせればいいんです。
ーーー引用元:『天才は親が作る』吉井妙子
単に時間のことだけでなく、イチローがやりたいこと、食べたいもの......否定せず、とことんイチロー目線で付き合っていたようです。
ただ、イチローと言えども、子どもだった訳ですから、時に飽きてしまったり、投げやりになったりもしてしまうもの。
そこは大人の度量で、遊びや気分転換に付き合ってあげたりもしたようです。
④ やりたい気持ちを応援することで、責任感と自主性が芽生える。
イチローのお父さんが、「イチロー選手でも、野球をやめたいと思ったことがあるか」との問いに、以下のように答えています。
高校に入学したての5月のことでした。練習試合に投手として出場し、散々打たれた後に、「野球をやめたい」ともらしました。私は理由を一切聞かずに、「後悔先に立たず、ということがある。自分でしっかりと考えなさい」とだけ言いました。見守ることに徹したのです。
子どもが落ち込んだ時は、見守ってあげる大人が必要だと思います。そうすれば、子どもはやがてまた、自分で歩き始めるはずですから。
ーーー引用元:子ども応援だよりWEB版http://kodomo-ouen.com/interview/01.html
自分の意思で始めた野球。
寄り添ってくれた、お父さん。
自分の意思に対する責任を感じ、やり続ける意思を育んだ原点は、支えて続けたお父さんの姿にあったのかもしれません。
さいごに 、同じインタビュー記事の中で、こんな話が書いてありました。
6年生では、「夢」という課題の作文の中で、はっきりと「将来は、一流のプロ野球選手になりたい」と書いています。担任の先生から、「大きな夢があるって、とても張り合いがあっていいですね。誰にも負けないぐらい練習をしてきたという誇りがある限り、夢は叶うでしょう」という言葉をもらって、大喜びでした。
ーーー引用元:子ども応援だよりWEB版http://kodomo-ouen.com/interview/01.html
これを読んで、やはり結果ではなく、努力を認めてもらえるのが、子どもは純粋にうれしいのだなと気付きました。
結果は、単に後から付いてくるだけもの。
やっている努力の過程をきちんと見て、きちんと褒めてあげる。
これだけで子どもは自信を持つし、より大きな可能性を生み出す原動力になるのだろうと思います。
正直言って、私はイチローのお父さんのように、努力の過程にとことん付き合ったり、子どもの自主性を何よりも優先するというところまで行ける自信はありません。
ただ、「結果ではなく、努力の過程を褒めてあげる」、「つまづいたら、一緒に考えてあげる」というのは、出来そうです。
まずは出来るところから、子どものグロースマインドセットを育む子育てを心がけてみたいと思いました!